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一条寛治のブログ

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

【憲法逐条解説】 第96条 憲法改正の手続

         第九章 改   正

 

 〔解 説憲法の改正手続に関する定は、旧憲法には附則中の一箇条(七三条)として規定せられて居たが、新憲法には特に之が為に一章を設くることとした。尚旧憲法には「憲法皇室典範摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルヲ得ス」(七五条)といふ別に一箇条の定が有つたが、新憲法は之を削除し、摂政の在任中にも憲法を改正し得べきものたらしめた。

 

 第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして直ちにこれを公布する。

 

 〔解 説憲法改正の手続

 憲法の改正には普通の立法よりも特に丁重な手続を要するものとして居るのが、成文憲法を有する諸国の普通の例で、本条に於いても旧憲法に於けると同じく特別の要件を定めて居る。但し旧憲法には憲法改正の発案権は専ら天皇に属するものとし又議会の議決の後天皇の裁可を得て始めて確定するものとして居たのに対し、本条には憲法の改正に付き民主主義に基づき、天皇は其の決定の後に之を公布したまふに止まり、其の決定には全く関与したまはず発案権も無ければ裁可権も無いこととして居ることに於いて、著しく異つて居る。新憲法に依る憲法改正の手続には(1)国会の発議権(2)国民の承認権(3)天皇の公布の三段を分つことを要する。

 

 (一)憲法改正の発議 憲法の改正を発議するの権は専ら国会に属し、国会の両院が各々総員の三分の二以上の賛成を得て之を可決し、両院の意見が相一致することを要する。国会の何れか一院に議案として提出することは普通の法律案と同じく、或は内閣総理大臣が内閣を代表して之を提出し、或は其の院に於ける成規の定数の議員から案を具して之を提出するのであるが※1、国会が之を議決するには普通の法律案と異なり特別の多数(出席議員ではなく総議員の三分の二以上)を要し、且つ両院の意見の一致を絶対に必要とし、普通の法律案に於ける如く両院の不一致の場合に衆議院のみの議決を以て国会の議決と為すことは許されない※2

 

 (二)憲法改正の承認 憲法の改正は普通の立法とは異なり国会の議決のみを以ては確定せず、国会の議決の有つた後更に之を国民の投票に付し有効投票の過半数の賛成を得ることが必要である。所謂「レフェレンダム」に相当する。国民の投票に付するには、或は特別にそれが為の投票を行はしむることが有り、或は国会の定める選挙の際に、併せて其の投票を行はしむることが有るが、其の何れの方法に依るかは国会が之を定めるのである※3。但し国民の投票は唯国会の提案の全部に対し可否を表明するに止まり、修正を発議することを得ないのは、性質上当然である※4

 

 (三)憲法改正の公布 憲法の改正に付き国民の承認が有ればそれで改正は確定するのであつて※5、其の改正せられたものが憲法の一部として之と一体を成すもので、天皇は国民の名に於いて直に之を公布せられるのである(七条一号)。本条には「国民の名で」とあり第七条には「国民のために」とあるが、同じ意味で、本来は国民に属する権能で国民から特に天皇に信託せられたものであることを示す趣意である。又「この憲法と一体を成すものとして」と特に明言して居るのは、憲法の全部を廃棄し全く新しい憲法を建設することは許さない趣旨を示して居る。

 

 

 ※1 議員が一般議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する(国会法第五六条第一項)が、憲法改正原案を発議するには、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する(同第六八条の二)。

 ※2 憲法改正原案について国会において最後の可決があった場合には、その可決をもって国会が憲法改正の発議をし、国民に提案したものとする(同第六八条の五第一項)。

 ※3 憲法改正の発議に係る国民投票の期日は、当該発議後速やかに、国会の議決でこれを定める。(同第八六条の六)。なお、国民投票に関する手続の細目については、日本国憲法の改正手続に関する法律(平成一九年法五一)に定められた。

 ※4 投票は改正案ごとに一人一票とし(日本国憲法の改正手続に関する法律第四七条)、賛成又は反対の意思を表明する(同第五七条第一項、第五八条第一項及び第八一条)。

 ※5 国民投票において、憲法改正案に対する賛成投票の数が投票総数(賛成及び反対の投票を合わせた数)の二分の一を超えた場合は、国民の承認があったものとし、内閣総理大臣は直ちに憲法改正の公布の為の手続を執らなければならない(同一二六条)。