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一条寛治のブログ

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

潮匡人『常識としての軍事学』(中公新書ラクレ)を読む。⑤新しい戦争と秘密工作、そして一つの疑問

 戦争のやり方が変わったのか。アフガン戦争、イラク戦争の事例を踏まえ「現代戦争」の姿を捉える。

 

常識としての軍事学 (中公新書ラクレ)

常識としての軍事学 (中公新書ラクレ)

 

 

 「最近の戦争は、それまでの戦争とは様相が変化してきている。一言で結論を言えば、「見えない戦争」という新しい側面が生まれている」(p161)

 

 見えないと言っても、戦争は現実に行われている。「見えない戦争」とは、戦争の本質、核心が見えないのであり、見せないのである。まずはアフガン戦争について。

 

 「[著者]が見た範囲では、ボブ・ウッドワードというアメリカの著名なジャーナリストが書き、世界中でベストセラーとなった『ブッシュの戦争』(日本経済新聞社が、最も信用にたる報告かと思います」(同)

 

 「「テネットは、数ある諜報技術のなかでもHUMINT(人的情報収集)を重視した」「HUMINTと工作担当官の訓練に割りふる予算を増やした。工作担当官とは、身分を偽って外国へ潜入し、“情報源”や“資産”と呼ばれる外国政府内部の情報提供者や工作員を徴募し、管理する秘密諜報員のことである」」(p162)

 

 「「二〇〇一年には、テネットは訓練生の数を一〇倍に増やした。(中略)目的はHUMINTを増やし、秘密工作を行うことにあった」」(同)

 

 CIA(テネットとは当時のCIA長官)は、予算を増やして秘密工作を行う諜報員を増やした。

 

 「もし、こうした措置が採られていなかったら、アフガンで(イラクでも)アメリカは歴史的な戦果を挙げることができなかったかもしれません。と言うのも、アフガンでアメリカはCIAと軍との共同作戦を遂行したからです」(p162-163)

 

 「「CIAはいま、アメリカ合衆国の役割を隠しつつ、殺戮兵器を用いる秘密工作を行なって、アルカイダその他の世界的規模のテロリスト・ネットワークを破壊する権限を与えられた」」(p163)

 

 「秘密工作なのですから、日本でテレビを見たり、新聞を読んだりしてイラク戦争に接していた日本人には、文字通り「見えない戦争」となったのも仕方ありません」(同)

 

 では「秘密工作」とは一体なんだったのか。

 

 軍とCIAが共同で、アフガンを実効支配していたタリバン勢力への買収作戦を展開した」(p164)

 

 「同書はアフガニスタンにおける現金支出はわずか七〇〇〇万ドルだった」と書いていますが、現地の人々にとっては相当な金額がばら撒かれたことは確かなようです。先ほど登場したゲアリも三〇〇万ドルの現金を「番号がばらばらの一〇〇ドル紙幣」「大きな金属製スーツケース」に詰めてヘリに搭乗しました。

 永田町界隈では、買収資金のことを「実弾」と呼ぶそうですが、アフガン戦争では、現金が実弾、いや、それ以上の効果を発揮したようです。同書はこう紹介しています。

 「結局、タリバン政府転覆のためにアメリカが投入したのは、CIA局員一一〇名、特殊部隊員三一六名、そして大規模な空軍力だった」」(p164-165)

 

 「私たちが日本で見たアフガン戦争とは何だったのか、ということです。右の記述を借りれば、私たちが「見た」のは現地に投入された「大規模な空軍力」だけだったはず。現地で暗躍したCIA局員や特殊部隊員の姿が日本のメディアに登場することは、ほとんどありませんでした」(p165)

 

 つまり戦争の中心はドンパチやることではない。むしろそれは「目くらまし」に過ぎない。工作機関を持たず、スパイ防止法さえ無い我国は、この「新しい戦争」に付いて行けるだろうか。

 同書は続けて、イラク戦争の話に入る。

 

 「イラク戦争の中核的役割を担ったのが米英軍の特殊部隊であったことは間違いなさそうです」(p167)

 

 この特殊部隊は、開戦前には「イラク側の抗戦意志を挫くような心理作戦(同)を展開した。

 

 「開戦後の「イラクの自由作戦」はどうだったのか。・・・彼らに与えられた役割は大別すると三つ。一つはイラク北部に展開していたイラク地上軍主力の南下阻止。二つ目はスカッドミサイルの発射阻止。三番目はバクダッド等市街地の敵掃討です。

 ならば、特殊部隊以外の通常作戦部隊は何をしたのか。一言で言えばバグダッド以南の地上占領。イラク南部の二方向からバグダッドへ向けて進撃した地上侵攻作戦と精密誘導兵器を多用した航空攻撃。つまり、私たち日本人が米軍に従軍した記者の取材活動を通してテレビや新聞で見たり、読んだりした作戦です。逆に言えば、私たちは現地に投入された通常作戦部隊の姿を一部垣間見ただけに過ぎなかったということです」(p167-168)

 

 やはり我々が見せられるのは、ドンパチやる戦闘の風景だけだった。

 

 「二〇〇三年、フセイン元大統領が米軍に捕獲されました。米軍自身、師団が捕獲したと発表、通常作戦部隊がフセイン大統領を連行する姿だけがテレビに映りました。

 でも本当に、通常作戦部隊が捕獲したのでしょうか。・・・実際にフセインを捕獲したのは、米陸軍の最新鋭特殊部隊「デルタフォース」だった。・・・ですが、そう発表して米国内世論が沸騰すれば、特殊部隊に対する過大な期待を増幅させる。そこで、あえて手柄を通常部隊に譲ったというのが真相のようです」(p170)

 

 特殊部隊というのは、秘密裏に活動するから「特殊」なのであって、衆目に晒してしまっては通常部隊と変わらなくなってしまう。

 

 ふと疑問に思うのは、現在のIS掃討作戦である。特殊部隊を投入すれば、もっと早期に終了したはずであると思うが、遅々として終わらない所を見ると、特殊部隊を投入していない、または、掃討作戦が遅延するよう工作している、特に後者であることを疑ってしまう。

 私は素人なので、米軍がISに補給をしているという情報の真偽を確かめる手段がない。

 

 「アフガンとイラクを例に見てきたように、最近の戦争では、特殊部隊が重要な役割を果たすようになってきました。しかも諜報機関と共同で軍事作戦を遂行する流れも生まれています」(p171)

 

 翻って我国は、諜報機関はおろか、法律上の軍隊さえ存在しない。如何に「実は自衛隊の実力は云々」と言っても、軍隊として活動できなければ、単なる米軍の補助機関でしかない。憲法改正議論の際には、諜報に付いても合わせて議論してほしい。

 

 長々と書いてしまいましたが、最後まで読んでいただけたのなら嬉しいです。