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国家とは何だろうか

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

潮匡人『常識としての軍事学』(中公新書ラクレ)を読む。⑥戦略と戦術、そして日本

読書メモ

 戦略と戦術は、「目的と手段」のような関係にあると思う。

 

常識としての軍事学 (中公新書ラクレ)

常識としての軍事学 (中公新書ラクレ)

 

 

 

 「「戦略」も、字面から推測できるように軍事の世界から生まれた用語(p174)だが、「軍事学の世界でも統一的な定義は確立されていない(p175)という。

 

 戦略と似た言葉に、戦術がある。著者(潮氏)はクラウゼヴィッツを引用する。

 

 「「戦略と戦術とは、空間的および時間的に互いに干渉し合う二種の活動であるが、しかしまた本質的に異なるものでもある。それだから我々は、戦略と戦術との概念を各別に確定しない限り、この二通りの活動をそれぞれ支配するところの内的法則と両者の関係とを、とうてい明白に考えることができないのである」」(p176)

 

 戦略と戦術とを明確に区別できないのは、目的と手段とを混同するようなものだ、ということだろうか。

 色々な人たちが色々定義しているようだが、私が一番しっくり来たのは『福武国語辞典』の記述である。

 

 【戦略】戦争・政治・社会運動を有利に展開するための、長期的・総合的な手段および方法。

  [参考]「戦術」より大局的で大規模なものをいう。

 

 【戦術】①戦闘に勝つための方策。②ある目的を達成するための手段・方法。

  [類]戦法

 

 大きな戦略がまずあって、それを実現させるために戦術を使い分けるというイメージ。

 では、日本の戦略は何だろうか。

 

 「人生の目的・目標が「世界に一つだけ」の掛け替えのない個性を前提とするのと同じく、日本の防衛も日本という国の個性・特性を踏まえたものでなければなりません

 ならば日本の個性・特性とは何なのか」(p180)

 

 「日本の特性を要約すれば、日本は海洋国家、しかも典型的な島国であると言えるでしょう」(p181)

 「テロやゲリラ攻撃、弾道ミサイルといった非対称型の脅威に対して最も脆弱となっていることも押さえておきましょう。」(p183)

 

 日本列島は細長い弧状列島で、本土から離れた島嶼が数多くある。ミサイル防衛をするにも限界があるのは明らかである。しかも、自衛隊のみならず警察の目の届かない、テロリストやゲリラの隠れ家となり得る場所が無数にあるといっていい。

 ちなみに北海道では警察署の統廃合が進んでいる。一体何を考えているのか。

 

 それから、生産活動に必要な資源の輸入先である「中東地域の平和と安定が日本の安全保障にとって無関係でな(p183)く、それらを輸送する「シーレーンの安全(同)の確保も忘れてはならない。

 では、そのためには、「専守防衛」だけで十分だろうか。

 

 「そもそも「専守防衛」は、その是非を論じる以前に「戦略」になっていません。ならば、どのような戦略が望ましいのか。・・・防衛線をできる限り、領土・領海よりも遠くに離れたラインに設定すべきということになるはず。さらに言えば、防衛よりは攻撃。領土・領海に接近する以前の段階で脅威に対処する必要があるはずです。そのためには受身の姿勢ではなく、やはり積極的な攻勢作戦が効果的です」(p186-187)

 

 日本の防衛線をどこに引くか。日本列島を守るには、台湾海峡、38度線がすぐに思い浮かぶ。北の守りは、現状では北海道自身が引き受けている(道民の多くはその自覚は無い)が、仮令千島樺太のどこに線を引いても、日本が直接国境を接することになる。

 

 戦略と戦術は、目的と手段の関係にある。一方で、戦略はそれを用いるべき目的に於ける手段でもある。

 では戦略を用いて守るべきものは何か。日本国家である。

 では守るべき日本国家の個性・特性とは何か。国体である。

 

 「自衛隊は何を守るのか・・・法令上の正解は「平和と独立」ですが、軍隊は何を守るのかと言い換えるなら、その答えは国民の生命・財産ではありません。それらを守るのは警察や消防の仕事であって、軍隊の「本来任務」ではないのです。

 ならば、軍隊が守るものは何なのか。それは「国家目標」の上位にあるもの。国家目的という言葉がしっくりこなければ、国家にとって「至上の価値」と言い換えてもよいでしょう。『我々だけの自衛隊』(松原正展転社「國家にとつての至上の價値とは何か」と提起した上で、それは「國體である。國體といふと眉を顰める向きもあらうから文化であると言ひ直してもよい」と解き明かしています。「伝統文化」と言い直してもよいでしょう」(p188-189)

 

 憲法学者美濃部達吉は、「國體」についてこう書いている。

 

 「國體といふ語は・・・歷史的に發達し形成せられた日本の國家の最も重要な特質を指す意味に用ゐられて居るのであつて、就中國初以來日本が萬世一系の皇統を上に戴き、君民一致、嘗て動揺したことのないことは、國體の觀念の中心要素を為すものである。それは現に国法として行はれて居る法律的制度の根柢を爲して居る歷史的の國家の特質を意味するのである」(美濃部達吉『逐条憲法精義』)

 

 君民共治の我が国体を護持するための「戦略」として、国土とシーレーン、中東の安定を保つ。その「戦術」として如何なる兵器を用い自衛隊を配置、展開するのかを考える。これがいわゆる「戦略的思考」なのだと思う。