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国家とは何だろうか

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

鍛冶俊樹『戦争の常識』(文春新書)を読む。⑤正規軍に認められる法律上の特例と、自衛隊の存在

読書メモ

 正規の軍隊とテロ組織の違いは理解した。では、正規の軍隊や軍人が、他の組織や一般人と異なる権利はあるのだろうか。

 

戦争の常識 (文春新書)

戦争の常識 (文春新書)

 

 

 「国際法では軍艦や軍用機はたとえ外国の領海内にあろうと本国の主権下にあるものと見なされ、外国の主権が及ばない。

 これを如実に示す事例としてあげれば、1985年12月に米国のフリゲート艦ロックウッドとフィリピンの貨物船が、東京湾の出口である浦賀水道で衝突するという事故があった。日本の領海内であるから海上保安庁が国内法に基づき捜査するのが普通なのだが、米国は全く捜査に応じず、海難審判は開かれず終いになった。米国の軍艦は米国の主権下にあり日本の司法当局の権力は及ばないのである。

 ちなみに国際民間航空条約国連海洋法条約など各種国際条約でも軍艦や軍用機は適用除外となっている」(p53-54)

 

 従って、米軍機墜落事故が起こっても、それが公務中であれば日本の司法は及ばないことになる。逆に、自衛隊が正規軍であり軍刑法も整っているとして、合衆国の海域で日本の「護衛艦」が事故を起こした場合には、合衆国の司法権は及ばない。

 ところで、自衛隊は軍隊なのか。同書は、それを問いかける事例を紹介する。

 

 「また通常どこの国でも自国の軍隊には様々な特例を設けている。例えば軍用機や軍艦が飛行場や港に離着陸、出入港する際は民間機や一般商船に対して優先権を認めているのが普通である。軍用車両についても緊急時には優先権が認められることは言うまでもない。

 更に軍人はその特別な義務故に、一般国民に適用される刑法とは別の軍刑法が適用される」(p54)

 

 「1988年7月に海上自衛隊の潜水艦「なだしお」と民間の釣り船が浦賀水道で衝突するという事故があった。このとき「なだしお」の艦長は海難審判を経て普通の刑法で裁かれている」(p54-55)

 

 国内法上、自衛官は「軍人」ではなく、海上自衛隊の艦船も「軍艦」とは看做されない。つまり、自衛隊は軍隊ではないのだ。

 では、若し自衛隊が軍隊で、自衛官が軍人であれば、どのように裁かれるのか。

 

 「軍人が軍務上犯した罪に対しては、刑法が適用されず軍刑法で裁かれる・・・この軍刑法に基づく裁判を軍法会議という」(p55)

 

 現行法では、我国に軍法会議も軍刑法の存在しない。軍法会議と似た言葉に、軍事裁判がある。

 

 「軍事裁判とは軍が主催する裁判という意味だから、幅広く見れば軍法会議もその中に含まれる」(p56)

 

 「軍法会議では自国の軍人を対象に自国の軍刑法で裁くのだが、それ以外に軍事裁判では、占領地などにおいて他国の軍人や一般の民間人を国際法などに基づいて裁く場合がある。国際法における正規軍人の規定が重要になるのはまさにこの場面であり、ここで正規軍人と判断されれば、捕虜として扱われるが、ゲリラやテロリストと判断されれば死刑もあり得る」(同)

 

 例えば、ある自衛官南スーダン軍に拘束された場合、彼は「正規の軍人」と看做されるのだろうか。確かに自衛隊は軍隊のように見えるし、海外でもそのように扱われていると聞く。しかし上述の「なだしお事件」や2008年の「あたご衝突事件」では、軍務上の罪ではなく、刑事上の罪を問われた。つまり、国内法上軍隊とは見做していないのである。これは現在も変わらない。

 従って、日本政府は、果たして彼を捕虜として扱うよう主張できるのか。その矛盾を追及されて対抗できるのか。疑問である。

 

 自衛隊を軍隊として活動させるには、①日本国憲法第九条を削除、②同七十六条第二項を削除、③同第六条第三項(天皇は、統合幕僚長を任命する)を追加し、自衛隊の最高指揮権者を天皇とする。これで軍隊を保有し、軍法会議を設置し、ネガティブリスト方式の軍刑法を整えられる。

 護憲派、護憲的改憲派は、自衛官の生命をどう考えるのか。彼等こそ自衛隊を危険に晒しているのである。