読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

国家とは何だろうか

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

鍛冶俊樹『戦争の常識』(文春新書)を読む。⑦軍の最高指揮権、天皇、自衛隊

読書メモ

 帝国憲法では、軍事については天皇の大権事項と定められ、統帥大権と編制大権とを区別した。前者は軍隊の指揮命令、後者は軍隊の組織を定める権限を意味する。或いは前者を軍令大権、後者を軍政大権と呼ぶこともある。

 日本国憲法下での自衛隊に対する軍令、軍政の権限は、一体誰が有しているのか。

 

戦争の常識 (文春新書)

戦争の常識 (文春新書)

 

 

 軍政という語には二つの意味がある。

 

 「先に「パキスタンで軍政が敷かれた」旨を記したが、ここで言う軍政は軍隊が直接、支配に携わること、つまり占領行政を指す。しかし軍政には同じ言葉で別の意味がある。それは軍事行政という意味で、軍の内部の管理を指す」(p62)

 

 パキスタンで軍政が敷かれた旨、というのは前回の記事を見てほしい。

 上述の軍政大権(編制大権)にいう「軍政」とは、軍事行政を指している。軍隊は、

 

 「平時には基地や駐屯地にいて、訓練や研究、警備などの仕事にいそしんでいる。当然、基地や駐屯地の管理、人事や物品の管理が必要になる。・・・つまり軍隊といえども他の行政機関と同様の行政管理が必要なのである

 行政機関の長が大臣であることに鑑みれば、軍政の長も大臣職ということになる。戦前の日本では陸軍大臣海軍大臣がこれに当たる」(同)

 

 陸軍大臣海軍大臣天皇の軍政大権を輔弼した。

 自衛隊の軍政の長は防衛大臣である。尤も、自衛隊は軍隊ではないから「軍政」と呼べるかは疑問であるが、所管大臣であることは間違いない。

 

 では軍令大権(統帥大権)に当たる権限、つまり最高指揮権は一体誰が有するのか。

 

 「ひとたび戦争になれば、・・・[軍隊は(註、引用者)]統一された指揮下で行動しなければならない。これを作戦指揮と言い、このための命令を軍令と呼ぶ。軍令上の長が自由に軍隊を動かせるわけだから、軍隊で最上の地位にあることになる」(p63)

 

 天皇は軍令上の長であるから、軍隊で最上の地位すなわち大元帥の地位にあった。

 

 「通常、最高指揮官は最高政治権力者と一致する。もしこの両者が別の人物だとするとクーデターが容易に起こせることとなり政治が不安定化するからだ。

 最高政治権力者は国によって異なるが、西欧諸国では本来、国王(女王)であった。従って最高指揮権も国王が持っていた。

 米国の大統領などはそもそも国王の代わりに設けられた職だから、米国では大統領が最高指揮官である」(p64)

 

 天皇は統治権の総攬者(元首)であり、軍の最高指揮官(大元帥)であった。しかし日本国憲法では、「条文上」、これらについて何等の権能をも有さない。

 我国と同じ立憲君主国である英国では、

 

 「英国は絶対君主制の国だったが、次第に議会で選出された首相が国王の代理として政治的な実権を握るようになったから、現在では事実上の最高権力者兼、最高指揮官は首相である。しかし「女王陛下の軍隊」としばしば呼ばれるように、形式上は女王(国王)が最高指揮官である」(p64)

 

 「事実上」は「政治的意味」、「形式上」は「法律上」と読み替える。

 

 「現在の英国では軍政は国防大臣が担当し、最高指揮権は女王の名において首相がこれを行使する。女王は名ばかりの存在に見えるが、将兵に与える精神的な影響はただならぬものがある。何年かで交代してしまう首相の名前で命令されるよりも、数百年続く伝統の称号で命令される方が命を託しやすいのである」(p66)

 

 現在の日本では、軍政は防衛大臣が担当し、最高指揮権は首相がこれを行使する。しかし何年かで交代してしまう首相の名前で命令されるよりも、千年以上続く伝統の称号で命令される方が命を託しやすいのではないだろうか。