読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

一条寛治のブログ

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

美濃部達吉『憲法講話』 3.国家の特徴と定義

 ▼前回

 美濃部達吉『憲法講話』 2.国家は一つの団体である - 一条寛治のブログ

 

 「国家が一の団体であることは右述ぶる通であるが、是だけでは未だ国家の性質を明にしたものと言ふことは出来ぬ。国家の性質を明にするには、尚国家が他の総ての団体と区別せらるべき特色を明にせねばならぬ。国家が他の団体と区別せらるべき特色は三の点を挙ぐることが出来ます

  第一 国家は地域団体であること、

  第二 国家は統治団体であること、

  第三 国家は最高の権力を有する団体であること、

是であります美濃部達吉憲法講話』大正7年、p11-12)

 

 「国家が地域団体であることは国家の第一の特色であります。地域団体といふのは一定の土地を基礎として成立して居る団体といふことである。国家は必ず一定の土地を占領して之を自分の領土として居り、国家を組織して居る人々即ち国民は此の領土の上に定住して国家といふ団体を成して居るのである(同p12)

 

f:id:ichijokanji:20170504202434p:plain

  「国家の第二の特色は国家が統治団体たることに在る。統治団体とは、単に特定の事業のみを目的とする団体ではなく、広く人類の生活を幸福ならしめんことを目的とし、而して此目的の為に其の団体に属する人民を支配する力を有つて居る団体を謂ふのであります。統治といふことは、元来支配といふ意味であつて、苟も国家といふ以上は、必ず人民を支配するだけの力を有つて居なければならぬ。若し此の支配力を備へて居ないものであれば、それは無政府の状態であつて、最早完全なる国家としての存在を失つたものと言はねばならぬ(同p13)

 国家が地域団体であり又統治団体であることは国家の著しい特色であるけれども、是は必ずしも国家ばかりではなく、府、県、市町村といふやうな、所謂地方団体も亦地域団体の一種で、等しく一定の地域を占め又人民を支配する力を有つて居るものである。国家と此等の地方団体との区別を明にするには、尚国家の第三の特色を知らねばならぬ(p13) 

 

f:id:ichijokanji:20170504202514p:plain

 

 「国家の第三の特色は国家が最高の権力を有する団体であることに在る。是が国家の最も著しい特色で国家をして他の総ての団体と区別せしむる所以であります。前に述べた通り、総ての団体は皆活動力即ち意思力を有つて居るものであるが、国家以外の団体は皆自分の勝手に如何なる活動をも為し得べき力を有つて居るものではなく、常に他の権力の下に服し殊に国家の権力に依つて制限せられて居るものであります。如何なる団体と雖も国家の命令に服せず独立自由の行動を為し得べき力を有するものは無い。独り国家のみは如何なる権力の下にも服することなく、自分で自ら制限を加ふる外には何者の命令をも受けず何者に依つても干渉せらるゝことは無いのであります(同p14)

 

 「国家が他の地域団体即ち地方団体の類と区別せらるゝ所以は専ら此の最高の権力を有するの点に在る。他の地域団体は何れも国家の権力の下に服し国家に依つて制限せられて居るもので何れも最高権を有するものではなく、独り国家のみが此の性質を備へて居るのであります。市町村だの府県だのに付いては其の最高権を有するもので無いことは言ふ迄も無い(同p16)

 

f:id:ichijokanji:20170504202546p:plain

 都道府県や市町村は、必ず国家の定めた地方自治法地方公務員法といった法律に従い、その活動は制限される。つまり国家の支配に服さなければならないが、国家自身は自らが加えた制限(国内法や国際法)のみに制限され、何人の支配をも受けない。

 

 「唯多少の疑の有るのは独逸帝国、米合衆国及瑞西聨邦の如き、所謂聨邦を組織して居る各国であります(同p17)

 

 原文は大正7年であるため、現代の情勢に合わせ、試みに以下のように書き直した。

 

 ただ多少の疑いがあるのはドイツ連邦共和国アメリカ合衆国及びスイス連邦のような、所謂連邦を組織している各国である。これらの国々はいくつかの国が集まって一つの国家を組織しており、ドイツはベルリンをはじめ16の連邦州より組織され、アメリカは50の州、スイスもまた26の「カントン」から組織されている。これらの連邦を組織している各国、各州は国家の性質を備えているが、それらの国や州はいずれも連邦共和国、合衆国等の中央権力に隷属し、最高権を有するものではない。先に述べた通り最高権を有することが国家の要素であるならば、これらの国、州は真に国家ではないと言わなければならない。国家たる性質を有しているのはただドイツ連邦共和国アメリカ合衆国それ自身で、これを組織して居る所の諸州はその下に属している地方団体に過ぎず、独立の国家ということは出来ないということになる。(同p17-18参照)

 

 例えばアメリカには州ごとに憲法があり、軍隊がある。ドイツにも州ごとに政府があり、州政府の閣僚を連邦参議院議員として送り出している。

 

 「国家の性質は略以上述べた通で、約言すれば、国家は最高の権力を有する領土団体なりと言ふことが出来ます。詳しく曰へば『国家は一定の土地を基礎とする団体にして自己の意思に基き自ら制限を加ふるの外他の者に依りて其の意思を制限せられざるの力を有するものなり』と、定義することが出来るのであります(同p19)

 

 「国家が最高の権力を有すといふことは、決して絶対無制限の権力を有すといふ意味ではない。普通に能く国家が絶対無限の権力を有つて居るといふことを言ふのは、甚だ間違で、前にも言ふ通り国家は一面には国際法の制限を受け一面には国内法の制限を受けて居るものであります。国家は唯此の制限内に於てのみ活動することが出来るのでありますが、唯此の制限は国家自身の意思に反して生ずるものではなく、国家が自ら加へる所の制限でありますから、国家が最高の権力を有すといふのであります(同p19)