一条寛治のブログ

日本憲法と安全保障について考えるブログです。

軍隊の最高指揮権の所在、自衛隊と天皇

 「通常、最高指揮官は最高政治権力者と一致する。もしこの両者が別の人物だとするとクーデターが容易に起こせることとなり政治が不安定化するからだ(鍛冶俊樹『戦争の常識』p64)

 

 最高政治権力者は国によって異なるが、西欧諸国では本来、国王(女王)であった。従って最高指揮権も国王が持っていた。

 米国の大統領などはそもそも国王の代わりに設けられた職だから、米国では大統領が最高指揮官である(同同)

 

 「こうした例を見ると明らかなように、最高指揮官は軍隊に帰属した人物ではなく国家上の最高権力者なのである。つまり軍は軍以上の存在すなわち国家に忠誠を誓っているわけだ(同同)

 

 「旧軍では軍政は陸軍省海軍省がそれぞれ陸軍と海軍を管轄し、陸軍大臣海軍大臣がそれぞれの責任者であった。

 軍令は陸軍参謀本部、海軍軍令部が担当しており、それぞれの長は陸軍参謀総長、海軍軍令部総長である。最高指揮官は言うまでもなく天皇である。ちなみに天皇の握っていた最高指揮権を統帥権と呼んでいた(同p65)

 

 帝国憲法下では、天皇統治権の総攬者すなわち「国家上の最高権力者」であり、大元帥すなわち最高指揮官であった。

 

 「現在の英国では軍政は国防大臣が担当し、最高指揮権は女王の名において首相がこれを行使する。女王は名ばかりの存在に見えるが、将兵に与える精神的な影響はただならぬものがある。何年かで交代してしまう首相の名前で命令されるよりも、数百年も続く伝統の称号で命令される方が命を託しやすいのである(同p66)

 

 「フランスの現在の政治制度は、大統領の下に首相を中心とする内閣が置かれており、首相は議会の承認を必要とする、いわば大統領議院内閣制とも呼ぶべき制度である。軍政は国防大臣が担当するが、軍令は大統領から発せられる(同同)

 

 「米国の場合は大統領だけで首相がいないから、最高指揮官は大統領という点では極めて明瞭である。・・・国防長官が国防総省を統括しているので軍政の長である。国防長官はその下の陸軍、海軍、空軍各長官を通じて軍政を行っている(同p67)

 

 我国の場合、防衛大臣が「自衛隊の隊務を統括自衛隊法第8条)し、内閣総理大臣が「内閣を代表して(同第7条)最高指揮権を行使する。すなわち防衛大臣が軍政の長、内閣総理大臣が軍令の長に相当している

 

 今後、自衛隊を軍隊とする場合、日本の政体に近い英国を参考にすると、軍政は防衛大臣が担当し、最高指揮権は天皇の名において首相が行使することになる。天皇は名ばかりの存在に見えるが、将兵に与える精神的な影響はただならぬものとなるだろう。何年かで交代してしまう首相の名前で命令されるよりも、2000年以上も続く伝統の称号で命令される方が命を託しやすい。

 

 「東日本大震災の折の天皇陛下のお言葉の中で、自衛隊に真っ先に言及されたのに隊員の士気も一層鼓舞されたと聞くが(私の知るある隊員は、寝袋の中で一人感涙に咽んだという)、大臣と天皇では歴史と伝統における格がまるで違うのである(鍛冶俊樹『国防の常識』p163)

 

 

 ▼引用図書 

戦争の常識 (文春新書)

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国防の常識 (角川oneテーマ21)

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